2006年 エロゲ・オブザイヤー



No.3 PULLTOP遥かに仰ぎ、麗しの
 PULLTOP作品は全てプレイしていますが、『ゆのはな』は個人的に相性が悪く『PRINCESS WALTZ』も少々出来に問題が……という状況で発売された作品。過去作品と比較するとテーマ性が極めて強く、痛みを描きながら居心地の良さも失っていない秀作です。健速・丸谷秀人二人の雰囲気の異なる物語を同居させた挑戦は賛否両論ではあるものの、自分は成功しているんじゃないかと思います。事象の二面性、愛されることの意味。色々考えさせられます。


No.2 戯画 『この青空に約束を―
 去年のパルフェに続き、丸戸作品の強さは相変わらず。『遥かに仰ぎ、麗しの』との差はほんの僅かで、個別シナリオにおいてはほぼ同等かと思います。演出・システム・主題歌等の面でやや優位であること、そして物語の締め方が本当に鮮やかで、納得して作品を閉じられる点でこちらを上に。(しかしまあ、結構人を選ぶ要素は散見されたし、何と言ってもあの手抜きの絵だけは何とかならなかったか……と思ったりもします) テーマ的な重さは無く、とにかく仲間達の楽しさと最後の一瞬を見届ける為の作品。


No.1 13cm 『ネコっかわいがり! 〜クレインイヌネコ病院診察中〜』
 2006年で最も狂った作品。同時に需要など考えずに、1つの世界の結末に真摯に向き合った作品でもあります。物語を完結させること、その最後の瞬間まで責任を持つことを忘れられがちなエロゲ創作においては非常に珍しい。只でさえ特異な作品だったけれど、後日談である『WHAT A WONDERFUL WORLD』の発表によってさらに印象深く。ウツロアクタは本当に最悪で最高な書き手だと再認識。


次点 130cm 『彼女たちの流儀
 自分は『この青空に約束を―』『遥かに仰ぎ、麗しの』『彼女たちの流儀』の三作の構造に関してはほとんど同等の評価をしています。なので、順位にはさほど意味が無いんじゃないかと考えたり。(企画の全否定) ジャンル上は吸血鬼モノという扱いになる作品ですが、実際は悩める少年・胡太郎の物語。物語の動機は少女優位であり、それに振り回されることはある種の被虐的快感を誘います。そう、この作品での絵とシナリオのかみ合いは本当に素晴らしかった。原画家であるみやま零氏が原案とシナリオの一部を担当しているから当たり前ではありますが、指先にまで魂を込める絵はなかなか見られません。




・ 雑感
 予想通りすぎるだろ、という件については弁解のしようが…… 2006年は就職・上京等のイベントがあったためにプレイ本数が少なかったです。秋頃に旧作の発掘(『CARNIVAL』『SWAN SONG』『ぼーん・ふりーくす!』その他)も行っていたので、新作はあまりプレイできていないのかも。まあそれでも、上に挙げた4本は自分のエロゲ史の中でも特別な存在になるのではないかと思います。特にネコかわは今まで出会ったことのないタイプの作品でした。


 興味深いのは、今回挙げた全ての作品が固有のラスト・エピソードを持っているところ。表現としては古典に入りますが、最近の作品はこの傾向がさらに強まっているのではないか、と考えています。ゲームらしい多元的な解法と、一つの物語としての締めを同時に実装するには一番手早い。同じ形式ばかりもどうかとは思いますが、今のところは評価も安定しているので採用するメーカーは増え続けるでしょう。


 ここ何年かの発売作品リスト、2004年のベスト3(『はるのあしおと』『らくえん〜あいかわらずなぼく。の場合〜』『お願いお星さま』)、2005年のベスト3(『パルフェchocolat second brew〜』『さくらむすび』『ユメミルクスリ』)を見るに、1年間コンスタントにエロゲをプレイして、強く心に残るのは3本〜5本ではないかと思います。(2004年の『Forest』、2005年の『ANGEL TYPE』等の選外も含めて) 2004年の大作集中を除けば、エロゲ界隈に大きな変化は無い印象。しかし、安定しているのと引き替えに新しい才能の発掘が進んでいない感覚はあります。創り手の平均年齢は確実に上がってますよね。


 2007年は1月の新作から良い話題が多く、幸先の良いスタートになりました。期待の大作、隠れた良作、今年もアンテナ高めで参りましょう。