戯画『パルフェ 〜ショコラ second brew〜』考察ネタバレ版・下 与えられた罰、里伽子。(戯言注意)

里伽子Trueシナリオをやっていないと本気で意味が分からないし、全然つまんないのでお気をつけ下さい。

仁には、幸せになってもらいたいの。



正直驚いた。丸戸史明は、こういうシナリオを絶対書かないと思ってた。
結局他の全てのシナリオは、彼女の心を踏み潰して進行していたという真実。もうこの時点で『パルフェ』という作品は完全に破壊された。里伽子の存在は、プレイヤー心理に対して敵対する。今までやってきたことはなんだったの?とんだ茶番・・・というのは言い過ぎですが、彼女だけはあまりに背負っているものが重すぎる。彼女の背負った物の重さを知ってしまうと、それを無視して進行することがとんでもない罪に感じられてしまう。


このシナリオは多分「プレイすること自体推奨されていない」。自分は降りたと宣言する里伽子を無邪気な気持ちで追いかけ、禁忌に触れることを「パンドラの箱」に例えたのは実に的確。仁は全てを知ろうとして、全てを失ってしまうことになるのだから。


うん、里伽子Trueシナリオの立ち位置はこれでいい。ここからは解釈だ。
今回の里伽子の件で重要なのは、基本的に「仁に責任は無い」こと。
基本的に里伽子が左手に障害を負ったのは自分の責任なんですよ。里伽子の異常に気付いてやれなかったのは良くないが、里伽子はその異常を自発的に隠してるから責められない。燃えているファミーユに自分から飛び込んでブレスレットと位牌を回収する、そんな無謀をやらかした人間を本当は弁護するべきではない。そこに仁が居たらやりかねないことでも、ね。
だからこそ里伽子は自分の残りの生涯を賭けて仁に真実を隠し通そうと思っていた。最悪ですよね。明確に責任があるなら正式に償ってもらうことでわだかまりは解けるかもしれない。(物質的な償いがあることで双方の心理的な負い目を軽減出来る。) 自分に責任があるのに、行為事実自体は相手を苦しめる。征くも地獄、返るも地獄。
里伽子の頭の中では、仁に打ち明けるシミュレーションがあらゆるパターンで用意されていたはずだ。仁が自分のことを受け止めてくれるハッピーエンドだってあったと思う。それでも最後まで里伽子を押し留めたのは、作中にある通り火事の時の仁の行動(恵麻優先)と、仁が真実の重さに堪えきれず里伽子と共倒れするバッドエンド。
さらにほとんどの場合、肉体的欠陥が生じるとどうしても精神的な歪みができてしまう。このようなケースなら当然「仁への憎しみ」に繋がるだろう。好きなのに憎い、発露出来ない感情。憎しみが好意に噛み付き、好意が憎しみに噛み付く。その輪を包む諦め。


里伽子は、どんなときでも、この危うい心を抱えたまま、存在している。


じゃあ里伽子Trueシナリオは駄作なのか?それはきっと違う。
共通ルート個別ルート問わずにこれでもかと仕込まれた伏線、それらが一気に繋がった時の衝撃と絶望の大きさ、彼女の体と心を救う為の仁の決意、そして夢の終わりの、何よりも美しい三人の涙。一年に一本あるかないかの素晴らしいシナリオだと思う。この感動は、浮世離れした精密なガラス細工の様。実に鋭く、実に攻撃的だ。他のシナリオのそれとは全く性質が異なる。他のシナリオはどちらかと言えば地に足の着いた、世界に対して自然な感動・・・もっと分かりやすくするなら「恵麻さんのケーキ」みたい。だからこそ、作品世界全体を踏み台にして痛さを増し展開される里伽子Trueシナリオは『パルフェ』の敵、と表現した。純正で用意された表向きのテーマに対するアンチテーゼ。


でも、最後は里伽子も圧倒的なハッピーエンドを迎えられる。一番報われてほしい人が笑っている。
本当に、救われるよなぁ・・・それだけで、もう、いい。


  (あくまで「各シナリオはパラレルワールド」という解釈も出来るけど、恵麻姉さんTrueエンドを見る限りは少し厳しい。三年経って本店のスタッフとして復帰して「ようやくスタートラインに立てた」「左手の握手は戦いの握手」と言っている。これは多分、恵麻と仁が禁忌を越えて世間の壁に立ち向かう姿を見て、独りでも戦うことを決意し、ハンデを乗り越えた末の言葉だと思う。里伽子はそれほどの女であることを、最後までプレイした人なら理解出来るだろう。)
  (つまり恵麻シナリオは里伽子Trueシナリオとその他のシナリオの真ん中に位置する。恵麻シナリオ以外だと里伽子は仁の恋を応援する立場になります。特にカトレアシナリオ終盤のあの作戦はひっじょーに象徴的で、仁を支えるだけの能力を持っている上に仁に愛されている玲愛が、どんな理由であれ仁から離れることを許すわけにはいかなかったのでしょう。自分には資格がないから、誰かに仁を幸せにしてほしい。玲愛なら絶対に仁を幸せにしてくれる。そして自分を置いて幸せになる仁と玲愛が許せないから、二人にとって厳しい作戦を立てた。それが彼女の最後の意地・・・泣けるよ。)
  (玲愛シナリオは里伽子Trueシナリオにケンカを売ってるとしか。玲愛シナリオでは最終的に「ファミーユ本店を一緒に取り戻そう。それが仲直り・・・」となるが、これは里伽子Trueシナリオと正面からぶつかる。だって、ねぇ?)
  (里伽子シナリオが他と大きく隔たっているところに「サブキャラの存在感」がある。里伽子Trueシナリオでは里伽子と仁以外はほとんど出てこない。恵麻さんは多少絡んでくるが、それは仁の信念の象徴としてだけ。里伽子の抱えた傷は仁にしか癒せない。仁は里伽子を、自分の全てを賭けて支えることを選んだ。外野が出る幕じゃ無い。)