Sphere『ハルカナソラ』雑感

  • 前に少し書いたものと似たような内容。ネタバレ注意。
  • 委員長の話。まさかの委員長一人称。田舎の学校の普通な女の子が、都会から来た普通じゃない転校生の男の子に惚れるベタをどう演じるか、ってのは結構難しいものだと思う。恋愛の動機に属する部分をほとんど省いてしまっているけど、一目惚れの話なのでこれでいいんじゃないかな。過程を面白く書けた時点で勝っている。絵も素晴らしいし……橋本先生の本気は恐ろしいですね。
     姫川あいりの熱演が物語全体の半分くらいを占めているんじゃないでしょうか。あとハル君の素敵さ。『ヨスガノソラ』全ルート含め、ハル君の誠実さや可愛さは重要なファクターになっている。本編で彼女はひどい失恋の仕方をしていたから、今度は明るい話になって良かった。登場人物の中でもマトモな人間二人がくっつくと、こんなにも平和な話になるんですね。『ヨスガノソラ』じゃないみたい。


  • やひろさんの話。腐った大人という意味ではダメイドの何倍も酷い。というか初佳さんは別にそんなにダメな人じゃないと思うんですよ。そりゃあ確かに努力しきれていないけれど、その位のダメさは否定されるほどのものではない。田舎の実家住まい、ちょっと婚期が遅れていて就職は縁故で……なんて珍しい話じゃないし。なんで初佳さんの弁護をしてるんだ。やひろシナリオではひどい扱いだったからかな。
     やひろ本人が"出来る人"かどうかは全然関係なく、心情的に快い話ではない。ヨスガ本編は暗く重い話を薄く延ばして書いてるような印象があって、その雰囲気に近いやひろの話もあんまり好きじゃない。ダメな年上に捕まりやすいハル君の将来が心配です。


  • 穹の話。なぜヨーロッパに旅立つことになったのか、本編エピローグの前日譚にあたるお話。本当は本編でやるべき話だったかも……とはいえそれは引き際とのトレードオフだろうし、好みは分かれるところか。あれほどしつこく周囲の人間に許しを請う必要があったのだろうか、という疑問は本編プレイ中からずっと残っている。ハルの真面目な性格やタイトルに"縁"を入れるくらい重要視している社会性に由来してるのは分かるんだけど、その前に穹との対話とか肉体関係への開き直りが優先されるべきだったと思う。
     そう、これは兄妹の至った冥府魔道であって、恋愛の匂いはかなり弱い。(そもそもエロゲから恋愛の匂いを感じること自体少ないけど) 穹は自分自身がハルの"最後の肉親である"という弱みを握っている。目を逸らすことのできないハルに感情を突き付けた穹は残酷だ。どういう結論を出したとしても穹がハルを刺し殺したことに変わりはなく、最低の妹だからこそ彼女の物語は魅力的。


  • カラオケの話。どうしようもないアホ話ではあるものの、瑛の「らっぱ寿司のテーマ」がキレてたからいいや。作中での歌の上手さの設定と、中の人の歌の上手さが反比例してるような。
  • 総じて満足度は高め。『ヨスガノソラ』自体は高評価でも大好きでもないけど、この『ハルカナソラ』で印象が強くなった。次回作に期待……したいけど、橋本先生原画の作品はしばらくは出ないかもなぁ。