偏屈エロゲーマー的エロゲ名作選(?)

・元ネタとしてエロゲ名作選?(nix in desertis)という記事を参照のこと。(REVさんのまとめ記事が分かりやすいか) ここから先は一種のネタ記事として読んでいただければ。




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Otherwise 『未来にキスを』
 いい加減鬱陶しいほど語ってきたと思うが、"恋愛"ゲームとしては最高峰にある。普段我々が経験する多くの作品は、表面的な恋愛を使って何か別の事柄――人生の素晴らしさであるとか人間関係の難しさ――を表現しようとする。それは決して悪いことではないし、むしろそちらが本来的な創作の姿だろう。しかしこの作品はただ恋愛の姿を捉え、その未来を提示するものである。今回は『Sense Off』や『フロレアール』を挙げないこととした。何故ならそれらの作品が人類の"観測"に費やされているのに対して、『未来にキスを』はその先の"希望"にまで到達しているからだ。


light 『R.U.R.U.R このこのために せめてきれいな星空を』
 遠い未来の、人類の"こどもたち"のお話。人間の精神をモデル化した創作の中で、造られた知能はその本質を照らし出す。積み上げた世界の魅力、そして読後感の良さは文句無しの名作。もちろん単体でも素晴らしい作品だが、随所で引用される童謡や原典となる古典名作SFの知識があると一層楽しめるはず。中核となるカレル・チャペックの『R.U.R』と『山椒魚戦争』、ポール・アンダースンの『タウ・ゼロ』は是非参照しておきたいところ。


CUFFS 『さくらむすび』
 『水月』以上にトノイケイズムが発揮され、より甘くより冷たく仕上がった作品。(アンモニア臭付き) 暖かい人達に囲まれた小さな世界と、薄氷を隔てて広がる暗い世界。作中ではその境を"大人と子供"で表現して、選択を迫る。その中で紅葉を選ぶことは必然ではあるが、その道を踏み外した瞬間に命を吸う満開の桜が見えてくるだろう。直接的でない描写が恐怖を煽る一種のホラーでもある。単純に幼馴染みモノの極限として読んでも完成度は高い。


minori 『はるのあしおと』
 人間の弱さ、その底辺からの成長を逃げずに書いた秀作。ニートが読んだら死ぬ。演出・構成に関しても完成度が高く、エロゲをある種の演劇・舞台と考えるなら手本になる作品。地に足の着いた作品に仕上げるには美しい背景画が欠かせないと考えていて、この作品が自分にとっての名作になったのはそういう要素が大きいだろう。minoriの作品はそういう確かさを獲得しつつあるように思う。


Littlewitch 『Quartett!』
 FFDは、登場から随分と時間が経った現在でも演出の極限に近い。そしてその演出の要である音楽が素晴らしかったこともあって、印象はとても深い。個人的には合宿での「咲き誇る季節」の演奏が強烈に焼き付いている。あれほどの爽快感と一体感を得られる作品は少ないと思う。(サントラ「flowers」は必聴!) とにかく絵が大量に必要な原画家殺しであるのも確かで、物語を短くせざるを得ない欠点もあるが……FFDを上手く運用する上で、短編が得意で演出にも造詣が深いシナリオライターの存在は必須だろう。(絵描きがシナリオまで兼任するのは制作上現実的ではない)


PULLTOP 『お願いお星さま』
 幼馴染モノとしては異色の作品。PULLTOP的な、幸せに満ちた世界を表現する上で"選択"を排除することを選んだのが成功の要因だと思う。その性質から「アンチ君望」というフレーズを思い付いたが、そういう攻撃的な表現は似合わない作品だろう。幼馴染三人で作る大三角、そして周辺を飾る隣人達の輝きには。書かれるエロがとても健康的で、たけやまさみの絵と噛み合っていたのも好印象。絵・音楽・シナリオのバランス感覚が秀逸。


ALcot 『Clover Heart's』
 御子柴玲亜という極北。こう、"可愛いは正義"なんて言葉が口から滑り出てしまいそうになる。実際、物語の側面から見てもそう悪くはない。多少イライラするかも知れないが、中学生相当の恋愛の姿としてあえて幼く書かれている。そういう子供らしい激しさの発露が魅力なのだ。(玲亜が可愛いから何をやっても許されるのでは、とも) 声優・文月かなに目覚めたのもこの作品。もし彼女の声が気に入ったのなら、『桜華』『フォーチュンクッキー』等の作品をお薦めしておく。


戯画 『ショコラ 〜maid cafe curio〜』 『パルフェ 〜chocolat second brew〜』
 あえて比較すれば、平均的完成度・ラストシーンの美しさでは『この青空に約束を』の方が上だろう。ただ、自分が愛したのは翠という執念の結実と、玲愛という誠実な後継者である。過去から大介を、仁を引き剥がさんとするその大きな力。彼らにとって想い出がどれほど美しいかを充分に描いているからこそ、それを思い出に変えることを望む。対等以上のパートナーの獲得を主軸にしてしまう自分は、読み手としては弱いのかもしれない。


HERMIT 『ままらぶ』
 丸戸式コメディを体験したいならまず第一にこの作品を薦める。いい意味のバカを集めて、予想以上のバカをやるのが彼の作品の魅力。演出に展開に、ジャンルに従ったお約束を。オリジナリティに拘泥しなくても面白いモノは出来上がるのだろう。特に自由度の高いエロゲというメディアは、他ジャンルの面白さを容易に取り込む。一部では30禁と言われる通り、丸戸氏のセンスは主に30代以上向けなのでその点は注意すべきか。


light 『僕と、僕らの夏』
 ダムに沈む村の停滞した空気と、変化の渦中にある子供達、そして腐った大人が独り。群像劇という言葉がよく似合うだろう。早狩武志は少年少女の精神性について繊細な表現を出来る優れた人材だと思う。妙に大袈裟なBGMや笛氏の淡い原画も独特の雰囲気を作っている。多様性と物事の表裏を感じさせるこの作品だが、物語の展開がルート毎にかなり飛んでいるので、若者の恋愛に絞った読み方をしたいなら『潮風の消える海に』をお勧めする。早狩氏本人の言葉通り、純度は後者の方が高いと思う。問い詰め的演出ありガチレズありと、割とカオスな作品。


F&C 『水月』
 どこか冷めた静けさを持つテキストは、主人公・透矢の記憶喪失との相互作用で読み手を不安にさせる。今更語るまでもないが、我々を雪さんというマヨイガに叩き込んだ迷作(人生を迷わせる作品)でもある。トノイケダイスケは承認欲求から発生する"愛されたい"気持ちに敏感で、無制限な甘やかしでそれを埋める。しかしその関係が薄氷の上にあることを忘れさせない辺り、実に底意地の悪い作家だ。綿密なSFとして読んでも興味深いし、悪戯な言葉遊びとして読んでも面白いだろう。幼馴染み作品として推す人も多いが、それは同じ☆×トノイケ作品である『さくらむすび』が更新した。


『ONE 〜輝く季節へ〜』
 発売から10年近く経つ今でも、夕焼けを見る度に「今日の夕焼けは何点?」と思い出す。こうして情景に関わった記憶を作る作品は特別で、その人にとっての名作なのだろう。今回選外であるところの『kanon』の場合は、無数に存在する二次創作を含めて頭の中にパッケージされていて、中には原作以上と思える二次創作もある。しかし『ONE』はそういう効果抜きで深く記憶に残っている。似ているようで、立ち位置はかなり違う。


13cm 『ネコっかわいがり! 〜クレインイヌネコ病院診療中〜』
 2006年は遅れて来た獣耳達の年であり、ネコかわはその筆頭。後半の超展開に騙された印象は無く、責任を果たしたのだろうと納得出来た。彼女らの闘争史として、幸福の王子とツバメの物語として、その責任は「WHAT A WONDERFUL WORLD」という後日談に収束する。シナリオライター・ウツロアクタの悪質さを痛感した作品。(内容については今までウザいほど語ってきたので割愛。) こういうヘンなモノを作るメーカー・ブランドは応援しがいがあるから楽しい。


ivory 『わんことくらそう』
 2006年獣耳三部作の二番手で、変態度は一番高い。未キスが"恋愛の最終形"だとするなら、こちらは"恋愛のなれの果て"とでも表現するべきか。軒下と表現される世界の強さには、共同幻想の入り込む余地はない。セックス可能な人型の獣が当たり前に人に飼われている、控えめに言ってトチ狂ったこの作品は受け手によってひどく印象が変わり、人によってはフリーセックスの提唱とも考えるだろうし、自分のように支配の構造の解明とも受け取れる。里沙は2006年のベストヒロイン間違いなし。(ロリ年増こと撫子さんも人間臭くて好きだが)


mixed up 『StarTRain』
 テキスト自体はアクが強くてえらく荒削りな作品だが、失恋による喪失や自己の定義に積極的に言及する意欲作。それらを語る上で年寄りの説教を排して、若い思考を保ち続ける辺りはコンセプトがしっかりしているのだろう。青臭い? この作品に対しては褒め言葉だ。幼馴染みという傍観者・遠日奏を外側から観測する時、彼女を他人とは思えなくなる。隣を歩んでいた筈がいつの間にか道を違えて、置いていかれてしまった。そんな彼女の究極的な結論は? タイトルにもなっているOPテーマ「StarTRain」はクリア後に聴くとまた違って聞こえる。3分41秒の音楽に作品世界の全部を詰め込んだ、主題歌として最高の一曲。


月面基地前 『らくえん 〜あいかわらずなぼく。の場合〜』
 エロゲ制作をネタにする、最悪のジョーカーを切った作品。一部では絶賛され、世間的には知られないままブランドは消滅したのだった。(今でこそそれなりの認知を受けているが、当時は酷かった) この作品が許されてしまうのは、その見た目にそぐわぬ繊細さを多く内包しているからだろう。エロゲで食ってゆく人間達の矜恃、大人と子供の境目の依存と自立心を時に口汚く、時に詩的に語る問題作。やたらと楽しそうな声優陣の演技、エレキギターが活躍しすぎのBGMと耳でも楽しめる。堕落する準備はOK?


GROOVER 『グリーングリーン』(1・2・3)
 作中では時を越え、創作商品としても長い時間を経験した作品。1は泣きの時代の寵児、2は名作から生まれた苦悩の続編、3は求められる幸せな物語として ―― 姿を変えて生き続けて、今は『エーデルワイス』に至っている。主軸は二つの対立する視点、朽木双葉と千歳みどりの二重螺旋。平凡な一つの"人生"としての双葉の物語、人類規模で展開する"歴史"としてのみどりの物語、どちらも興味深い。幸せな私たちが命を産むのか、永く命を繋ぐことで幸福を得るのか。個人的には「モノクローム」から「オルゴール」へ流れるみどりの物語にこの作品の本質を見たつもりだ。そう、ボーカル曲に関しては紹介すべきポイントが多すぎるので今回は割愛する。全ては音楽に意味を与える為の物語とも言えるだろう。


minori 『ANGEL TYPE』
 数奇な運命を辿った割には、発売されてからは特に話題にならなかった作品。ヒロイン三人と主人公・尚の奇妙で絶望的な、"分かり合えない""相手を背負えない"距離感が独特。静寂の中にある、とても小さな物語だ。特に未憂に対する尚のスタンスは主人公としてあるまじき、しかし人として認めざるを得ない弱さを含む。(致命的なモノではないにしろ)尚が通院する精神病患者であったり、未憂ではXP(色素性乾皮症)を取り扱っていたり、注目すべき要素は多い。


ライアーソフト 『ぼーん・ふりーくす!』
 トンデモ医療モノの皮を被っているが、実際はもっとおぞましい何か。ほとんど運任せのユーザーブン投げ型ゲームシステム、頭の悪さと暗さが同居しているシナリオがライアーらしい。(どんどん弱くなるウラシルに殺意を覚えたり、パラメータ調整が上手く行かずにEDを見られなかったりしつつ) OPテーマ「Dreht Sich!」だけでも元が取れる……が、フルコーラス版は「GWAVE2005 2nd Impact」(2006/06/30発売)にのみ収録されている。(ゲーム本編は2005/10/21発売。どうでもいいが、フェニルのCVで出演している金田まひる(+当サイト管理人)の誕生日と同じだ)


ライアーソフト 『Forest』
 これ以上に悪趣味なエロゲを俺は知らない。星空めてお大石竜子と童話が悪魔合体した結果、新宿が大変なことになってしまいました……マジでコメントに困る作品で、とりあえずやってみろと言う他無い。エロゲに飽き始めた頃にプレイすると強烈なカンフル剤になる筈だ。テキストと音声がそれぞれ別の内容という演出は、情報密度を上げる意味では理に適っているのかも知れない。音声はテキストを追確認するだけのものではない。BGMも素晴らしいが、ライアーは個別のサントラが発売されないのが難点。


ニトロプラス 『"Hello,world."』
 ニトロでは一番波長の合った作品。(デモンベイン等も楽しめたのだが) ニトロが萌えを重視した、と謳っている割には他の作品以上にヒロインの印象は希薄だ。一種の人工知能を主人公とし、周辺の人間から学習して成長するという設定は、エロゲではかなり難しかったのではないかと思う。その辺りを偏執的に丁寧に書いた為か、変態的に長大な物語の中で主人公・友永和樹がヒーロー兼ヒロインのような役目を負ってしまった。和樹がどのように個性を獲得し高等被造知性として何を成すか、彼の人生の物語を書くにはこの程度の長さが必要だったのかもしれない。全くニトロらしい……のか? いとうかなこの名曲「煌星」はこの作品のEDテーマ。


S.M.L 『CARNIVAL』
 とてもロックな作品なのかもしれない 少なくともお上品にやるつもりは全く無いらしく、常に人間の醜さに焦点を合わせていた。究極内向き思考の主人公・学を最後まで見つめる作品なので好き嫌いは分かれるだろう。メインヒロイン・九条理紗の一人称で語られる舞台裏には吐き気を覚えたりもするだろう。それでも思わず読み進めたくなる、瀬戸口廉也の筆力の高さはエロゲシナリオライターでもかなりハイレベルではないかと思う。後日談に当たる小説版も必見。本編以上に暗い気分になれること間違いナシだ。


すたじおみりす 『うさみみデリバリーズ!!』
 CVを含めた掛け合い、キャラモノとしての楽しさも標準以上であるが、それ以上に世界設定の深さが面白い。作中の端々に意味深な言葉や小道具がちりばめられているのに、実際の本編では回収されないまま終わってしまう。エンド後に第二部が始まってもおかしくない展開で、絶対面白くなると思うのだが……大変惜しいのは、各方面の状況の悪化により続編や後日談が作られる可能性がゼロに近いことだ。(製作当時のギャラ問題に加えて、すたじおみりすというブランド自体も消滅している) そんな事情を理解しつつも、この作品に関してだけは何とか続編が作られないものかと期待せざるを得ない。通常とは違った意味で終わり処が間違っている作品。


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・この企画に関する記事の問題点は、自己満足度が高すぎることだろう。ハードなエロゲーマーはリストを見るだけでその人の好みを理解するだろうが、大半の閲覧者にとってはただのタイトルの羅列に過ぎない。マイナーな作品に偏ればさらにその傾向は強くなる。


・実は厳密に30本ではありませんし、順位はあえて付けていません。方向性が違いすぎます。あくまでも"名作選"であり、基本的品質の向上による良作は意図的に低く評価しています。(『もしも明日が晴れならば』や『遥かに仰ぎ、麗しの』等) 今挙げている作品の評価が下がることはまず無いでしょうが、上書きされる可能性は常にあります。明日には中身が変化しているかも知れません。


・実のところ、こうしたまとめを作るのは人生の何らかの区切りか、死ぬ前くらいでいいと思う。つまり、いつでもいいということだ。(←遅れた言い訳)