minori 『ANGEL TYPE』 ―― 柚月未憂の病気に関する考察 (一応ネタバレ無)

 あるいは色素性乾皮症、通称XPについて。


 今TBSで 『タイヨウのうた』 というドラマをやっていて、その中で色素性乾皮症 (XP)という病気がクローズアップされて話題になっていると聞きました。 (XP難病指定問題色素性乾皮症に関する誤った認識も参照) 勿論ここでエロゲーマー的に思い出されるのはminoriの 『ANGEL TYPE』 であり、柚月未憂でしょう。これらに関して議論した内容について以下に。


 未憂は作中で光線過敏症と記述されていますが、症状や治療を見るに、光線過敏症状を起こす病気の中でも色素性乾皮症 (XP) ではないかと思われます。
 では、XPではどのようなメカニズムで光線過敏を起こすのか、そもそもXPとは一体どんな病気なのか。現状で解析されている範囲では、XPはDNA修復に問題がある場合に発症すると考えられてます。紫外線の照射で皮膚細胞のDNAが損傷するのはご存じの通りですが、人間にはDNAのダメージを修復するDNA修復機構があります。それによって異常な細胞の増殖、細胞のガン化などを防いでいるワケです。しかしXP患者の場合、DNA修復機構の中で非常に重要な役割を持つヌクレオチド除去修復 (NER) に関する遺伝子に異常が存在し、紫外線等で受けたDNAのダメージを修復できません。それによって皮膚ガンのリスクは通常の約2000倍、その他のガンのリスクが約20倍になっているそうです。


 色素性乾皮症 - Wikipediaを見ると、何種類かあるXPの中でも日本人にはA群 (XP-A) が多いようです。A群は非常に重篤な症状を示すケースで、光線に対する過敏性と共に進行性の神経症状を持ち、年齢と共に成長障害、聴力障害、呼吸障害、嚥下障害等を発症していき、かなり若い年齢の内に亡くなってしまうそうです。 (近年ではA群患者の方でもリハビリなどにより平均寿命は延びている) A群ではこの神経症状が多く死因に絡んでおり、また患者の紫外線被曝量と神経症状の進行の関連性はないと言われています。 (神経症状のメカニズムはまだ分かっていない部分が多く、難しい領域)


 対照的にXPの中でも比較的軽い症状を示す (A群に見られるような神経症状が無い) ケースに、バリアント群 (XP-V) があります。XP-Vではヌクレオチド除去修復 (NER) が正しく機能しているにもかかわらず、光線過敏など臨床的には他のXPと同様の症状を示します。何が原因なのかは長らく分かっていませんでしたが、最近の研究 (とは言っても1999年辺り) でXP-Vで欠損している原因遺伝子が発見されました。


 XP-Vについて、上の記事や理化学研究所のXPVタンパク関連記事大阪大学大学院 生命機能研究科の研究を総合してみると。
 細胞分裂のためのDNA複製の段階でDNAに損傷があると、基本的に転写が停止してしまいます。本来DNAのダメージはNERで修復されるのですが、NERは大規模なダメージにも対応できる機構である為修復に時間が掛かり、修復されないうちにDNAの転写が始まってしまう場合があります。その為にNERを補うための高速なDNA修復機構として、ひとまずDNAを複製した後に修復を行う損傷乗り越え修復という機構が動作します。XP-V患者の場合この損傷乗り越え修復を行うDNAポリメラーゼを作る遺伝子に問題がある為、その他のXP患者と同じく光線過敏の症状を示すそうです。そしてDNA修復の失敗・遅延は細胞のガン化にも繋がり、各種ガンのリスクが増大すると考えられています。


 定時制の学校に通っていることから、未憂がA群だとすると年齢的に相当厳しい神経症状が出ていると考えられます。Trueエンドの彼女の結末からしても、今回の議論で我々は未憂は色素性乾皮症のバリアント群 (XP-V) だろうと結論付けました。だから何だと言われればそれまでですが、キッチリ作り込まれていた事が分かっただけでも充分な収穫です。


 XPは 「日光を浴びたら死ぬ」 という単純な病気ではなく、複雑なDNA修復機構に由来する研究中の病気です。昼でも的確な対策を取れば外出できますし、夜でも水銀燈などの紫外線を発する光源には注意を払う必要があります。今色々と問題になっている通り、病気や障害を創作の題材にする事に関しては非常にデリケートにならざるを得ないのだなと痛感しました。物語としてのカタルシスは得られやすいのですが…… 『ONE』 以来抱えているジレンマ、でしょうか。


 (本当はちゃんとした医学書等も調べられれば良かったのですが、環境が無いので詰めが甘くなってしまいました。静かに心の内側を語り、人が触れ合う痛みの中で僅かな救いを生み出す作品として 『ANGEL TYPE』 は非常に優れた作品だと思います。この記事で興味を持った方は是非読んでみて下さい)