エロゲ・オブジイヤー2005

いつも読んでもらってるお客様には今更な内容が多いかと思いますが、せっかくの機会なので2005年を振り返ってみる。若干プレイした数が少ないのでベスト3の形でだけ。作品毎の詳しい話は個別の感想を参照の事。




No.3 rufユメミルクスリ
  ここは悩みどころだった。 『車輪の国、向日葵の少女』 かとも思えたけど、個人的好みでこちらに軍配。膜を通して見えるセカイや人間と社会の原型、イジメやドラッグなど多分に人を選ぶ要素はあるものの ―― ある種の人間にとっては強烈なクスリたり得る。ストーリーとしては短くて、欠乏感すらある辺りもクスリのよう。音楽や絵を含めたどこか現実感のない雰囲気は 『ANGEL TYPE』 にも通じる。セカイ系らしい表現が多く見られるが、全ての背景にあるテーマが意外なものだったりもする。キーワードはOPテーマ 「せかいにさよなら」 の歌詞にある、かな?
  rufのスタッフ日記にあった 「ユメミル三部作」 という田中ロミオのジョーク、実際シリーズ化しても面白いかも。短めのシナリオで、一つのキャラと付随するテーマに対して大きな一つのイベントを用意するような、作品形態としての三部作。どうだろう?


No.2 CUFFS 『さくらむすび』
  出来云々はともかく、思い入れの深さでこの位置。感想の方で色々と書いているので、プレイ済みの方は是非この記事を読んでほしいのですが……見かけは小規模な作品、しかし裏に潜む歴史と感情に引きずり込まれる。あくまで明言はしないが示唆的な要素の集合に、気がつけば足を取られている。もちろん素直に楽しんでも素敵な作品には違いないが、想像の余地を残す懐の深さは 『水月』 と比べても遜色ない。
  トノイケ氏の非常に繊細な心理描写も健在。少女的なその文章は不安も信頼も強く伝えてくれる。特に紅葉ルートの中の圭吾と紅葉のやりとりには、人が幸せになるための全ての要素が詰まっているような感じすら覚えた。幼馴染みを書かせたらトノイケダイスケの右に出るライターはいない。これだけは譲れないね。


No.1 戯画 『パルフェ 〜chocolat second brew〜』
  意外性も何もないけど、やはり2005年のエロゲと言えばこれだろう。笑いあり感動あり、エロゲというジャンルに求められている多くの要素を高い次元でクリアする質の高い作品。
  この作品のシナリオライター丸戸史明という人はやはり文章書きではなくエロゲライターだ、と思った。エロゲのシナリオには基本的に声が入り、音楽が入り、演出が入って初めて作品になる。その噛み合いが上手く行ってることがエロゲとしての楽しさに繋がってるんじゃないだろうか。キャラが立っていること、掛け合いが軽妙なこと、文章の密度が高すぎないこと、その文章が声に出す台詞として適切であること、そして全ての基本である物語の出来が素晴らしいこと。二番煎じを示すタイトルが馬鹿らしく見えるほど、前作であり名作 『ショコラ 〜maid cafe "curio"〜』 と並ぶ ―― あるいは越える作品であったと思います。
  おそらくこの作品は現象系エネルギーを多く持たない、歴史に残りにくい作品。それでも今年の作品の中では抜きん出ている。2006年はまず丸戸史明×ねこにゃん新作 『この青空に約束を―』 に期待したいところ。


次点 Circus 『舞-HiME 運命の系統樹』
  メディアミックスで生まれた作品としては出色の出来。元ネタのTV版の不満点を踏み潰しつつ、作り込まれた独自路線を走ることで不思議な満足感を創り出す。重い設定を受け入れた悲劇には賛否両論だったようだが、ゲームから舞-HiMEに入った自分は違和感なく受け入れられた。伸ばした手からすり抜けていった幸せ、それでも最後に残った希望。特になつきシナリオは今期のベスト個別シナリオ候補でもある。 (他にはさくらむすびの紅葉ルート、パルフェの里伽子ルート、ユメミルクスリのあえかシナリオ等)  各エンディングとEDテーマ 「Silent wing」(美郷あき) のマッチングも素晴らしく、今期一番泣かされた作品。
  何で次点かって? エロゲじゃないからなぁ。


  以下、今年プレイした作品一覧。 (Notエロゲ含む) 一応コンプリートしたモノ限定だが、なんか忘れてるような気がする。中途半端なままの作品もいくつかある。『桜華』 とか 『いただきじゃんがりあんR』 とか。

COREMORECO 『ちびママ』  
UNiSONSHIFT 『Peace@Pieces』  
LeafToHeart2』  
LeafToHeart2 XRATED』  
07th Expansionひぐらしのなく頃に解』 目明し編罪滅し編  
戯画 『パルフェchocolat second brew〜』  
sirius 『魔法はあめいろ?』  
PULLTOPゆのはな』  
Tarte 『ひなたると』  
ライアーソフトSEVEN-BRIDGE』  
minoriANGEL TYPE』  
ぱじゃまソフトプリンセスうぃっちぃず』  
ねこねこソフトサナララ 〜SA・NA・RA・RA〜』  
Nitroplus 『"Hello, world."』  
アリスソフトぱすてるチャイムContinue』  
IRI-CT 『卒業 Next Graduation』  
Circus 『舞-HiME 運命の系統樹』  
CUFFS 『さくらむすび』  
UNISONSHIFT 『わんもあ@ぴぃしぃず』  
Navel 『SHUFFLE!』  
Navel 『Tick!Tack!』  
オーガスト夜明け前より瑠璃色な』  
light 『群青の空を越えて』  
ういんどみるはぴねす!』  
TYPE-MOONFate/hollow ataraxia』  
Lump of SugarNursery Rhyme -ナーサリィ☆ライム-』  
Key 『智代アフター 〜It’s a Wonderful Life〜』  
rufユメミルクスリ』  
あかべぇそふとつぅ 『車輪の国、向日葵の少女』  
上海アリス幻樂団東方花映塚



・ オマケ (上記ソフトの軽いネタバレを含むかもしれない戯言)
  自分の重視する傾向が丸分かりなベスト3をお送りしました。エロゲにおいてはとにかく作品世界作りが重要だと考えているらしい。自分にもシナリオ至上主義的な部分はあるけど、音楽も絵も無視してはいけない。世界はいつも色と音に満ちている。作品世界を旅して、その途中で誰かと出会うのがエロゲプレイだと思いますよ、と。


  『車輪の国、向日葵の少女』 は確かに非常に興味深い作品ではあるし、評価されるのも分かる。でも好きにはなれない。なんだろうな……話の見せ方があざとくて、読んでいる最中に 「はいはい感動感動」 と冷めてしまう感じ。本格的に物語中の要素を隠し、話をひっくり返すやり方はあまりエロゲでは見ないので新鮮だが、作中で同じ展開を繰り返しすぎて途中からは素直に受け止められなくなる。そんなところにメインテーマは人の本来持つ強さです、と言われてもな。内容としては2章・3章が本義だと思った。こんな不満が出るのは自分の受け手としての性能が低いから?


  2005年新作は大作不在、全体として小粒ではあるものの尖り具合は増してる気がする。 『ANGEL TYPE』 は弱さによってコミュニケーションの難しさを描き、エロゲらしからぬ雰囲気を持っていた。ゲーム的な独創性をエロゲに求めるのはどうかと思うが、システムの面白さならカードゲームが作品世界にマッチしていた 『プリンセスうぃっちぃず』 だろう。設定部分を煮詰めれば名作になった可能性も…… 残念賞オブジイヤーこと 『SEVEN-BRIDGE』 の後半のいい加減さには憤りすら覚えた。 『智代アフター 〜It’s a Wonderful Life〜』 については自分でも消化できてないのでハッキリ形には出来ないが、麻枝氏にしても実験作だったんじゃないかな。次回作 『リトルバスターズ』 に繋げるために序盤のギャグパートがあったと思うし、アフターアフターはちゃんと 『CLANNAD』 の遺伝子を受け継いでいるんじゃないかとも思う。 『群青の空を越えて』 はもうエロゲの中でも嗜好品と表現するべき。万人に薦めるのは無理っつーかそもそも想定してない。あー、そういえば 『SchoolDays』 『らぶデス』 も2005年か。尖りすぎてて頸動脈をかき切られてしまいそう。


  ひぐらし関連の議論はもう自分がどうこう言える領域を越えてるので省略。解答編の超展開に受け手の期待を満たすことの難しさを感じる一方、 『Fate/hollow ataraxia』 が絶讃されすぎているのが気になる。ある人の 「二次創作でやり尽くされてる、原作者のやるべき内容ではない」(意訳) という言葉が印象に残ってます。売り上げは正義であるし、同人に触れない人にとっては新鮮なのかも知れないけど…… 『ToHeart2 XRATED』 をベストゲームに挙げるのもどうかな。そうそう、ヘタレ主人公に河野貴明伊藤誠という有力な存在が現れたのも2005年。


  プレイできてない注目作は 『あやかしびと』 『AYAKASHI』 『つよきす』 『処女はお姉さまに恋してる』 『GALZOOアイランド』 『SWAN SONG』 あたりか。今のペースじゃ追いつけるワケないな。 『モノごころ、モノむすめ。』 の評判の良さも気になってはいる。エロゲをプレイしてきて何年になるかはあえて思い出さないが、それなりに新しい作品は出ている。毎年時代に合わせた作品が出てくるし、人の忘れる作用によって昔と同じような作品が好まれる流れが周期的に来る。 (ツンデレブームには原点回帰的要素が、とか言い出すと長いので略) 悲観的になりすぎず、受け手であればまだまだ楽しめるさ。