オーガスト 『夜明け前より瑠璃色な』 感想 ―― 三十八万キロメートルの断絶

略称は平仮名だと見辛いので 「明け瑠璃」 で行きます。「固定ルート」 は一周目で通るフィーナシナリオを、「フィーナシナリオ」 は 5キャラクリア後に現れる方のフィーナシナリオを指します。




・ 序論
 オーガストの過去作をプレイしていると、色々と見えてくる点がある。
 まずは演出。今まではフェイスウインドウ + SDキャラカットインという形式で展開されてた部分を立ち絵によるアクション + カットイン + イベント絵スクロールに置き換えてきた。(SDキャラは今回もある程度使用) 最新鋭とまではいかないけれど、かなり動く演出になってて面白かったと思う。しかし明け瑠璃は日常イベントが前作ほど多くないので、これが100%生きてくるのは次回作以降かな。
 今回NScripterからBGI (Buriko General Interpreter) に移行し、演出が増えた割には軽い動作だが後半に行くに従ってこういった演出が減ったのは残念。一枚絵で補いたいところだが全体的にCG枚数は少なめ。
 (another viewを使った見せ方は少し違和感があった。プレイヤーとしては面白いが、基本的に達哉の主観だけで進んでいる大筋に対して突然すぎるところも。選択肢としてはもう少し頻度を上げて使うか描写過多を避ける為に廃止するか。嫌いじゃないので引き続き採用を希望。)


 あまり進化してないなぁ、と思う点は音楽に関する演出。BGMの強さもないし、使うタイミングに関してもいまいちな場面が多かった。Key辺りを引き合いに出すのはどうかと思うけど、せめて 「これは」 と思える一曲を用意して欲しい。
 (個人的に榊原ゆいは良い仕事をしていたように思う。『EternalDestiny』 も 『Lapis Lazuli』 の作詞も。しかし 『Lapis Lazuli』 のボーカルはもうちょっと選択肢があったんでは…… 別に嫌いじゃないけどね。手塚まきの 『WAX AND WANE』 も同様。)


 絵的な話はするまでもないと思いますが少しだけ。
 判子度は確実に高まってる。ここの考察でも明らかになって通りカレン・リース以外は顔のパーツがかなり同じ……ような気がする。しかし信者的に言わせてもらえばべっかんこう氏の絵の魅力は表情と動きにある。表情差分の可愛さは今回も健在だし、背中を見せる立ち絵を用意する辺りも実に理解がある感じだ。
 加えて肉の表現。エロシーンの絵がちゃんとエロいのは上手い証拠だと個人的には思っています。各ヒロインともかなりむっちりしてる印象がある。後はエロシーン以外でももう少しCG枚数を増やしていただければ完璧。


 選択肢がストーリーの進行に対して違和感を生じさせている件については、途中でシステム的な部分に変更があったんではないだろうかと推測。(根拠は満弦ヶ崎を俯瞰したCGにおいて朝霧邸や学校、大使館が妙に大きく描かれていた点) 元々はプリホリと同じMAP選択式行動選択で、それを廃止して文章選択肢式にしたからこうなった、とか。確かにMAP式は明け瑠璃の世界観に微妙にそぐわない気もするが、あのいい加減な選択肢と日付管理はどうかと思う。


 CVは至って良好。手塚まきのフィーナの姫っぽさがほんの少し足らないくらいか。成瀬のメイド役は手慣れたものだし、海原エレナの菜月は厳しいんじゃないかと思ったけど年季でカバー。それら良キャストの中でも麻衣役の安玖深音は充分な存在感があって素晴らしい。麻衣というキャラの奇跡のバランスは彼女の声無くしては成り立たないだろう、と書くと信者であることがバレそうだ。
 (フィーナ代替案としては田中理恵を推しておく。SEEDでのラクスに近いイメージで。)


 エロスに関してはオーガストの伝統なのか、着衣エロの多いこと多いこと。夢に溢れた素敵エロ満載である。 (20シーン中最初から全裸2回、途中から全裸1回でそれらは全て風呂の中。ほとんど服を脱ぐシーンは他に2回ほどあるが、チョーカーが残ってたりニーソが残ってたりして、むしろ小道具を目立たせる為に他を脱いだ感じ。) オーガストがユーザーのニーズをキッチリ読んできたのか、極めて的確な配置とシチュエーションだったように思う。むしろ若干長い傾向にありこれ以上は増やさない方が無難。



・ 物語全体として ―― 断絶から始まる未来
 全ルートを終了すれば分かる通り、物語の骨子には 「断絶」 がある。何故こういうテーマを打ち出したのかという事に関して。
 当然今までの作品とは色を変えていきたい思惑 (一定の系統の作品しか作れないメーカーは弱い、という考え方) もあったのだと思うが、作中の要素に関連付けるなら 「月と地球」 だろう。月と地球の歴史はすれ違いの積み重ねで、過去には文明を後退させるほどの戦争があった。満ち欠けする月と同期するように揺れ動く感情、しかし月はいつも地球の側にある……というモチーフ。ほぼ全部のストーリー (リース除く) の流れがすれ違いを相手への理解へ繋げていく構成になっている。
 (各キャラ同じ展開が続きすぎだと思わなくもない。プレイヤーの感情の上げ下げがほとんど同じテンポだから合わない人には辛いだろう。)



鷹見沢菜月 ―― 報われない幼馴染

それを私に聞く?

 他人のルートではひたすら応援役に徹する可哀想な幼馴染み。達哉との約束によって自分の未来を規定した彼女が、自分以外の全てのシナリオで約束を忘れ去られているという事実には思わず同情してしまった。 (約束を覚えていたらドタバタも何もなく菜月と結ばれることになりそうだけど) 幼馴染みをないがしろにする作品は好きになれないんだが、他のルートや日常シーンで充分輝いていたので良し。

別の人間であるという、圧倒的な断絶。

 約束をしている事実 (ひいては菜月が達哉に惹かれているという事実に連結) ごと忘れさせれば切り捨てる痛みもない。社会的に明らかに不安定な関係になる他のヒロインに達哉の感情を向けさせる上で、菜月を切り捨てる痛みや菜月が約束を踏み越えて未来を自分の物にする成長を描写しないのはオーガストらしいのかも知れない。


 ただ、菜月のストーリーが明け瑠璃という作品の中で必要だったのか? と聞かれれば必要なかったと答えるしかない。鷹見沢家の人々は達哉やフィーナの成長にとって非常に重要なんだが、恋愛要素としてはそれほど面白いものではなかった。菜月シナリオは、他のルートで非常に良い働きをしてくれた菜月に対してせめてもの祝福を、と言ったところだろう。


 (菜月は全体的に評判が悪いみたいだが、その身に藤枝保奈美の影を背負っていたことを考えると可哀想になる。保奈美はTV版はにはにの結末を曲げてしまうくらい強烈なキャラだったから。自分のルートはイマイチで他人のルートでは強く輝くというサブキャラ症候群の末期的な患者だ。)

……やだ。この機会を逃したら、ぜったい君を他の人に取られて、後悔するんだ。

 (恋愛ゲーム、特に幼馴染みキャラでは避けて通れない 「幼い頃の約束」 というヤツは何とかならないものだろうか。そんなものがありました、と提示するだけで動機付けになるとでも思ってるんだろうか。あまり好きじゃない。断絶を越えるには、そんなものじゃあ足らないんだ。)



朝霧麻衣 ―― 義妹はエロ担当、これ常識。

お兄ちゃん以外の人は、好きにならないの。

 媚びすぎず、それでいて可愛らしいという奇跡のバランスで仕上がった妹。
まさかオーガストが正面切った形で 「義妹との愛」 をテーマにしてくるとは、と少々驚く。プリホリのシルフィの時はそれはもうあっさりした展開 (そもそもワールド的展開で有耶無耶) だったし、エロゲでは定型句化された義妹という社会的存在の意味を問うのはこのブランドの役目ではないと思っていた。

もう何年も、本当の兄妹だと偽ってきた。
それを今更、どんな顔で覆せる?

 両親を亡くしていて、その中で父親に恨みを抱える達哉。
 しかし達哉がとても幸運だと思えるのは、両親以外にも素晴らしい家族を持っていたから。達哉の特殊な生い立ちは少なからず彼を歪めている。麻衣を愛したこと (そして麻衣が達哉を愛したこと) 自体はある種歪みの発露に近いものがあるが、なんとか麻衣エンドの段階まで軌道修正できた。それはひとえに家族達の力で、特に鷹見沢家の面々の理解と協力が大きかった。共同体の中でも個の尊重がなされればそれは羨むべき関係に変わる。元々が普通と違う、明確な起源を持たない共同体だけに理想的になったのだろうか? とにかく、仁兄さんとマスター左門の懐の深さに感謝するしかない。

もしあなたたちがお互いを幸せにできるのなら……
これ以上の喜びは、他にはないわ。

 血の繋がりのない強い兄妹愛から発生する関係に関しては 『さくらむすび』 がやりきってしまった感じはります。しかし 『さくらむすび』 が 「信頼できない大人」 を前面に立ててきたのに対し、明け瑠璃の場合 「信頼できる大人」 を前面に立ててきた。だから達哉と麻衣は関係をしっかりと確立できたし、今居るどこからも逃げないで済んだ。援護射撃がなければ前線には立てない。さやかの赦しは二人にとって最高の祝福。ホント、いいひとばかりの物語だ。


 (とにかくエロい、いやエロカワイイ。そういう表現がピッタリ。髪は解く前の方が好きだけど、髪を使ったけじめという構造は好きなので良し。写真から両親を切り取る辺りがキモウトへの素質をちらつかせるが、ギリギリで踏みとどまったな。)



穂積さやか ―― がんばれお姉ちゃん

でも、本当は、私が誰かに頭を撫でてほしかったのかもしれない。

 さやかは非常に危うい存在で、左門・仁・カレンと同等大人に属する力を持ちながら達哉以上に酷い歪みを抱えている。幼い頃に両親に愛されなかった記憶を持つからこそ、今の 「家族」 を支えたいと願う……ある方向からは強いがある方向からは弱い。麻衣シナリオではピンポイントにそこを突かれて崩壊しかかった。人のココロに敏感なのも歪みの副産物。

あなたが本気なら、私は何も言わない。

 さやかシナリオでは一段と達哉の若さが爆発してる感じ。フィーナの時も菜月の時も麻衣の時も割と空回って自体をややこしくしている様に見えるが、個人的には自分の感情を燃やすその力を発揮できているだけでも羨ましい。明け瑠璃自体走り系の作品であり、好き嫌いが分かれるのも仕方ないだろう。


 さやかは達哉の情熱にほだされてあっという間に落とされる。世間的にはこの辺りが評判悪いようですがほとんど疑問は感じず。さやかのようなタイプはキーになる部分を押さえれば直ぐに落ちる。図らずも達哉は、さやかに対して 「家族」 と 「信頼」 という最強のカードを使って最短距離で攻略した。

血なんか繋がってなくったって、家族になれるんだからな。

 さやかが再び月へ行く構図は千春・琴子夫妻の鏡像であることに、達哉は気付くことができた。つまりフィーナシナリオ以外では唯一亡き父親との和解を済ませたということで、そういう意味でもさやかシナリオが一番安定した関係ではないだろうか。麻衣との関係もそうだ。麻衣シナリオでの麻衣と達哉の秘密はさやかの足下を危うくするが、さやかシナリオでの麻衣と達哉の約束はむしろ強くさやかと達哉の関係を祝福する。


 結局のところさやかシナリオは最後まで暖かい 「家族」 の話だった、と。フィーナシナリオのように規模は大きくないが、実にオーガストらしいお話。

この家が、私のたった一つの居場所だったんですもの。

 しかし最後まで麻衣と達哉の関係については言及されなかったな。ここは是非麻衣シナリオとは違う、より良い解決方法を提示してもらいたかったんだがそれは贅沢だろうか。
 (例えば創作を考えるなら、月留学決定から出発までの間にそういう話を入れ込む形にしたらどうか。達哉をパートナーにして歪みを解消できたさやかなら、きっと麻衣と達哉の事実も上手く吸収してくれるだろう。)


 (留学で達哉と麻衣は二人残されるが、麻衣は自分のルートの時のように暴発することはないはず。麻衣に施された封印は随分強固に見え、そしてさやかシナリオ中で一層強く封印されることにより二度と表舞台に立つことは無くなるのでしょう。麻衣の中の決着をanother viewで示しても面白かったかもしれない。)


 (実は攻略キャラでは一番のお気に入りである。撫でられたり叱られたりしたい人はきっと多い、と信じている。)



ミア・クレメンティス ―― 正真正銘徹頭徹尾のメイド稼業

更迭だっ!

 世には安易なメイドキャラが氾濫している。メイド服着てればメイドか? ふざけるな! メイドなら主人の為に死んでみせろ! ……とは言わないが、とにかくメイドが多すぎるのである。


 しかしここは流石オーガストというべきか、ミアはメイドらしさで言えばほぼ完璧なメイドである。歴代オーガスト作品の中で設定からして完璧で完全なメイドが出てきたのは初めてで、過去に王宮魔法劇団『ミントちゃん物語』 を作った連中が満を持して送り出してきたメイド ―― それが王宮付きのメイドだというのは何とも面白い。 (この部分だけ意味不明な文章に)

あなたは、ここに残りなさい。
……これが、私からの、最後のお願い。

 ミアシナリオ自体がフィーナをより魅力的に見せる為にあって、そんなところまで主人を立てる辺りが生まれついてのメイド体質。小鳥の件から見るに、ミアも案外カレンと同じで無理難題を課せられた方が熱く燃えるようだ。ドジっ娘っぽく見えるが優秀で、メイドや従者は絶対に有能であるべきだと信じる自分としては素晴らしいキャラ作りに見える。


 シナリオ展開としては、フィーナシナリオで達哉が月へ行く以上ミアシナリオではミアが地球に残るしか選択肢が無い。ミアはあくまでメイドであるし、作品のバランスから考えれば当然なんだが……ミアの仕事の責任の重さを見た後には、達哉が月に行くエンドが無いことが引っ掛かる。この辺はプリホリと同じくコンシューマ版補完だろうか。
 (プリホリCS版にはPC版には無い 「国王になる/ならない」 という2種類のエンドがある。両方買わなければならんのでやめていただきたいと思っている。なので今は、ミアシナリオの正史として彼の母の娘という作品を推しておきます。二次創作ですがこれほど的確な補完もないでしょう。)

ぱにーに……

ともかくサブとしてもメインとしても良いキャラではあった。いきなり自分から裸エプロンになるという離れ業にも愛を感じるし、いつか出るVFBあたりでべっかんこう氏がイチオシするに違いない。
(メイドとロボとエルフ耳には一家言ありそうな人だから。ついでに黒髪おかっぱも大好きらしいので、ミアはべっかんこう氏お気に入りである可能性が極めて高い。)


(そして、フィーナや自分のルート以外で空気になったりする辺りもメイドらしい のだった。)



リースリット・ノエル ―― 静寂の月光

人は間違いを犯す。

 彼女の役割は予想通り説明役だった。カレンが幾分か役を負担してくれるが……
 あくまでフィーナの前座で、トランスポーターに関わる話のナビゲーターという印象が残る。教団の思惑、戦争の事実、そういった作中でリアルに感じられないものを代表してリースというキャラが居る。物語には絶対必要ではあるんだが、恋愛要素として面白かったかと聞かれればそれはまたもやノーである。菜月とは違った意味で可哀想なキャラ。


 リースに家族と個性を与えたという意味で、達哉との恋愛に発展すること自体はそれほどおかしくないと思う。ただなにぶん展開が早い。雨の中のリースの笑顔はどこから見ても極上としか言えないんだから、あと一歩丁寧にすれば劇的に良くなる気がする。

こういうの、嫌いじゃない。

 知識を詰め込まれた管理者としての役割、というのはプリホリのラピスに極めて近い。オーガスト共通歴 (後述) の中ではプリホリ明け瑠璃よりもずっと昔の話なんだが、管理者に人格を設定するというのは共通だ。ラピスのような存在を造り出すだけの技術力が戦争後の地球圏に残っておらず、ロストテクノロジーによるベターな手段が 「フィアッカを保存する」 方法だったのだろう。


 フィアッカ及びリースは常に前線に立たされている事を考えると、フィアッカは人格知識保存として唯一無二の存在ではない?(そうならばあれほど危険な任務はさせないだろう。戦争と王家関連の仕事をこなしているということは重要人物には違いないだろうが……) 永い時間にフィアッカの人格が耐えられるのか、という疑問に対しての答えが 「あまり表には出たくないのだがな」 ということ。人格は永い時間によって疲弊し劣化する。


 達哉達は見た目から年齢を幼いと推測しているが、リースの実際の年齢は結局分からないままだ。リース自体はセフィリアの事を知らないと言っている。その辺りがよく分からない要素だが、リースの肉体自体は教会による管理で見た目とは大きく違っている可能性もある。
 (リースが見た目通りの年齢なら、三年ほど前に死んだというセフィリアを知っていて当然なんじゃないか? 教会の特殊な環境で育ったのならむしろよく知ってるだろう。そう考えるとリースの肉体は人工的に用意された器である可能性もある。その肉体にリースという人格が付加されている理由は前述の通り、フィアッカという人格知識を必要な時だけ取り出し維持すること。)


 結局リースシナリオではリースだけがクローズアップされ、フィアッカは邪魔者的な扱いをされているのが少し気になった。終わってみればフィアッカに対する救いはリースシナリオではなく真・フィーナシナリオと分かるんだが……フィアッカをクローズアップしたシナリオを見てみたかった気もする。戦争からの700年余りの時間の流れ、彼女 (彼?) の口から語られればオーガスト共通歴も埋まるだろう。フィアッカの700年の孤独が埋められる日が来ると信じて。


 (永遠の旅人であるラピスにひとときの連れ添いとしてクリフが心通わせたこと、あれはとても良いものでありました。フィアッカにもそういう救いがあってほしい。技術さえ残っていれば、リースの位置には生の肉体でないラピスが居たんだろうな。そう考えると面白い。フィアッカはゴーストコピー? 肉体は一種の義体だから目の色が変わる? 考え出すとキリがなくて難しいが、楽しい素材ではある。)


 (ちなみにオーガスト共通歴とは、オーガスト作品が全て同じ時系列の上に乗っていると仮定した時の時代設定のことである。時代の順番は  はにはに・BP → 100年後世界 → プリホリ本編 → プリホリTrueエンド → あけるり  となる。はにはに・BPを現代とし、100年後世界の少し前に宇宙への移民が開始されプリホリ本編世界が出来上がる。シンフォニア号が旅立った後マルバスにより世界文明が後退、マルバス終焉後の地球にクリフ達は降り立った。その後世界は文明を取り戻し、月への入植を開始する。この時代に技術的な極大を迎えるが、月との戦争が勃発し再び地球圏の文明は後退……という流れ。この説に乗ると明け瑠璃の世界は西暦にして3000年より後、技術レベルからすれば3500年付近のことであると推測される。それでも 「戦争が700〜800年前で、月への最後の入植が660年前」 ってところにはどうしても疑問が残るし、星間トランスポーターより時空転移装置の方が遥かに技術的に難しいんじゃないかとかいろいろありますが。)


 (リースのエロシーンには多くの人がドン引きだったらしい。何故なのか全く理解できない俺はロリコンであり極刑は免れぬとす。)



フィーナ・ファム・アーシュライト ―― 輝く地球、輝く月

こんなに温かい人たちが、俺達を見守ってくれていたのだ。

 固定ルートの方はもう、フィーナと達哉のすり合わせによる成長としか。
 固定ルート終了時点ではフィーナシナリオは始まったばかりなので当然なんだが、まだまだ先が見えていない印象が強い。自分達の行いの影響力に気付き始めたところで続きは最後に回ってしまう。プレイヤーのテンションから見ても、一周目を固定したのはかなり大きなロスだろう。
 しかし一周目でさやかとカレンによる二人への叱咤が聴けたのは良かった。直前のサンドイッチブチ撒けは実に辛いシーンではあるものの、やはりアレなしではフィーナシナリオは締まらないし、信頼できる大人と家族を最大限に示してくれたと思う。


 フィーナシナリオは 『夜明け前より瑠璃色な』 という作品のほとんど全てだ。言い換えれば 「支えてくれる人々」 と 「貫く理想」、「断絶を越える」 となるだろうか。全員のルートで得た答えが集積してフィーナと達哉を押し進める力となる。


 ここまで来れば充分に味わってると思うが、支える家族達の力は凄いものがある。道を逸れた時には絶妙なタイミングで必要なだけの後押しをする。象徴的なのは固定ルート中盤で 「菜月には関係ないだろ」 と言う達哉を皆が怒るシーンだが、この人達は自分達が繋がっていることをとても自然に信じている。ここまで繋がっている (ように見える) 人達を使ってすれ違いや断絶からのコミュニケーションを描くとはなかなかに外道なやり口だ。かといって悪意に溢れた描き方ではない、それが明け瑠璃の大きな魅力。
 (悪意を感じない事がオーガストの魅力だと思う人が 『バイナリィ・ポット』 をプレイしたら卒倒しそうだ。アレには純然たる悪意や無邪気な悪意がそれなりに存在するから。)

人は結局、過去の集合体だと思うの。

 フィーナは個の断絶が埋まること、及び皆がそれを望むことが月と地球の断絶を埋めることになると考えているようだ。一般的な評価通り若い思考であるな、とは思う。
 アースノイドスペースノイド (ムーンノイド) の断絶を個々の認識から埋められるだろうか? 国家としての月の弱みは決定的だ。メリットが無い状態で対等な関係を結んでくれるほど地球側が紳士とも思えないし ―― となるのが自然。最後のシーンでの貴族達もフィーナの演説で納得した訳ではなく、前々から親地球派であったか王が賛成したので流れに乗ったか反対だけどとりあえずあの場では黙っていただけだろう。月と地球の未来は物語後の実務的な努力にかかっている訳だ。


それでも、カレンや達哉が示す通り、フィーナには理想を語る人であって欲しいと思う。その輝きが月の姫たる彼女の魅力であり、そしてそれは好意に値する。

物事を動かすのは人、人を動かすのは理想よ。

 フィーナの理念が固まってきたところで、最後に積み残した課題はやはり達哉の父親の話。
 フィーナは周りから充分なサポートを受けていたので、月に来てから折れることはないだろうと信じていた。きっかけは偶然とはいえ達哉の歪みは綺麗に昇華され、千春の助けでトランスポーターに到達した時点でもう何の心配事もなく。他作品から言葉を借りれば "フィーナは無敵だ" といったところか? (無敵よりは最強の方がしっくり来るが) 達哉のような普通の若者に 「パートナーとしてのプライド」 なんて言葉を意識させるほどだし。

あなたと一緒なら、きっと大丈夫。
私には、あなたがいるわ。

 達哉と恋愛をしている時点で絶対的な誇り高い王族という存在ではないが、人間的かつ理想主義的な施政者としてしっかり確立されていたように思う。その姿は全シナリオ共通で、『夜明け前より瑠璃色な』 は良くも悪くも彼女の為の作品であった。フィーナの存在が強くなければ今まで通り空気SF作品になっていただろうから、明け瑠璃を愛するプレイヤーとしては感謝するしかない。


 (フィーナシナリオは 「フィーナに達哉が攻略される」 ように見えるのが面白い。要は昔出会った男の子の元へ自ら赴き、いい感じに成長してたその人をしっぽりゲットして月に凱旋、ついでに母親の名誉も回復してやれ! みたいな。ヒエラルキーが完全に フィーナ > 達哉 だからか。)



・ 好みに由来する戯言
 人によって名作から駄作まで評価が分かれているようで。実際Web拍手でも 「つまらなかった」 「期待外れ」 的なニュアンスの意見が結構目についた。
 キャラ萌えを求めて買う人、ワールドを期待して買う人、設定に惹かれて買う人、話題になってるから買う人。『夜明け前より瑠璃色な』 という作品の客層はかなり幅広いように見え、それが要因となって評価の分化が起きたんじゃないだろうか。


 今回傾向を変えてきたことに関しては好意的に捉えてます。当初月人説まで浮上してた麻衣や菜月に関して設定はほとんど関係なく、一方でフィーナやミアでは設定に対してある程度違和感なく話が展開される。はにはにでは全員が無理矢理設定に関係させられていた事を考えると、随分作品世界を受け入れやすくなったなと思う。
 その結果今までより自然にSF部分に目がいってしまい、結構な量の設定のアラが目につく……皮肉なモノだ。歴史関連は情報が断片的すぎるので無視するにしても、トランスポーター絡みは言うまでもなく文化・生活設定にまで理解しにくい点が多い。はにはにの時ほど気楽には楽しめない。
 展開下手なシナリオライターが設定を用いて物語を動かすというのはよくある。多分それなんじゃないかという指摘はあるものの、今回は総合的にまとめる方向で動いてたようだし、今後はもっと良くなるんじゃないか? 次回作はもうちょっと軽い感じでもいいかなと思いますが。
 振り回されなくなったことには一抹の寂しさを覚えるけれど、きっとこれでいいのだ。


 好き嫌いを分けたもう一つの要因として、思わぬ達哉の 「若さ」 もある。(上の方でも軽く記述)
 前半は妙に真面目で年に似合わぬ責任感を見せてくれるものの、個別ルートに入ると周囲が見えなくなったり自分で溜め込んでキレる場面が結構ある。格好良い主人公が求められている今のニーズにはちょっと合ってない。
 しかしまぁ、ほとんどの場合状況があまりに特殊すぎる為に、キレたくなる気持ちも分からなくもない。明け瑠璃は特殊な環境下のヒロインがメインになる作品で、達哉は一般人という立場を貫くしかない。その辺の認識のズレや衝突による歩み寄りをメインテーマにしている以上、それを受け入れられない=今回は残念でしたという事になる。


 ともかく、全ては未来の月の女王、フィーナ・ファム・アーシュライトの為の物語であったことに安心しつつ今回は終了。

提供は、オーガストでお送りいたしました。


オーガスト共通歴年表  (エロゲ板・工作板のオーガスト関連スレより)

2018年 地球連邦政府樹立
2022年 月面上にマスドライバー設置
2028年 月面基地計画第一期終了。引き続き第二期となるが規模は徐々に縮小される
2031年 「アルセ・マジョリス」に地球とほぼ同質量の惑星発見。
2045年 第一号コロニーの建造開始
2052年 第一号コロニーいまだ完成せず。長距離移民政策を本格始動。
2058年 第一号コロニー完成。10万人規模
2059年 惑星ケイロンへ最初の移民船団が出発。2万人級移民船10隻
2060年 第二号コロニー完成。
2061年 第三・四号コロニー完成。
2063年 第二号コロニーにて、デブリ衝突による事故発生。コロニー人気は多少下火に
2064年 第一次ケイロン移民船団、ケイロンへ到着。入植開始
2069年 アルファケンタウリの惑星ケイロンへ、第二次移民船団が出発。
2070年 アルセ・マジョリスへの調査移民船が出発。
2103年 (ウィルス蔓延により地球は壊滅的被害。技術レベル低下の原因か?)
2116年 アルセ・マジョリス調査移民船が到着。
2285年 シンフォニア号アルセ・マジョリスより地球に向けて発進
2331年 シンフォニア号地球に到着。地球は保守的傾向が強くなり宇宙政策は放棄

・ 参考・関連資料
オーガスト オフィシャルHP
CUFFS 『さくらむすび』 考察  大人達への復讐 (自前)
『D.B.E三二型』内コンテンツ『夜明け前より瑠璃色な』 にみる帝國海軍
『後の末莉』 日記内の明け瑠璃関連記述
『いながわの あしあと』 日記内の明け瑠璃関連記述
エロゲ板・工作板のオーガスト関連スレ


『latest AFTERWORDS.』 日記内の明け瑠璃関連記述
『CANDYFORCEWWW』内連作SS 「彼の母の娘」
   明け瑠璃に関しては織倉さんに敵う気がしない。