minori 『ANGEL TYPE』 確定済みの黒猫(ネタバレ有り)

キャラ個別シナリオの話を。
関係性を見返すことは、彼が如何に他人を求めているかの証明になるだろうか。


・未憂シナリオ
ATという作品の象徴。
「私のせいですか?」と「ごめんなさい」が印象深い。序盤は臆病で後半に動き始める辺り、彼女の病気の進行具合が伺えて哀しくなるよなぁ。彼女の持つ物の重さは、尚に言い訳を止めさせるだけの圧力があった。だから尚自身慎重、というかヒロイン中では一番距離のある接し方だったんじゃないかなーと思います。踏み込みすぎない/干渉しないことで相手と自分を守るやり方は、波長が合わない人にはもどかしく感じるだろうけど合う人には分かりすぎるほど分かるだろうなぁ。
詩希シナリオで尚が口にする、「奇跡の願いは悪魔の声、心を食われる病」という一節が思い出される。最終的にどう頑張っても未憂は生き続けられないという結末は、ATが保った理性のライン。奇跡はいつでも望まれているけど起きないから奇跡であり、彼らが流れ着いた果てこそ運命、なんですね。


・詩希シナリオ
尚が救い手になる話。
詩希が内側に持ってるのは(表面上)「考えない」(から対処出来ない)という欠陥であって、(表面上)「考えすぎ」(て行動出来ない)の尚とはむしろ噛み合っていたのかも。ATは比較的現実的で厳しいお話なんですが、その中で誰かをキチンと救うにはこのシナリオのようなやり方しかないんじゃないかなぁ、と。(このシナリオ中、尚は詩希につきっきりで他は全て放置するしかない。) 未憂は誰も救えない話で、詩希シナリオは一人だけ救うお話。尚みたいな人間にとって、誰かのオンリーワンになれることは(関係が続く限り)自己肯定になる? 寄り添いあって、という感じのエンディングはささやかながら幸せそうで大好き。
個人的なお気に入りは彼女だったりします。フワフワした思考も好きなんですが、黒猫の死に関する描写がとにかく痛くて切なくてしょうがなかった。ウチでも黒猫を飼ってるし、ペットロスってのは他人の話じゃない。だからバッドエンドで彼女が記憶を失うのも尚が全てを賭けようとするのも全部分かる。自然にシンクロしていく感覚があって、彼女には本当に幸せになって欲しいと思った。それが救いたがりのエゴでも、ね。


・砂緒シナリオ
救ったつもりが救われた話。
砂緒は「尚に救ってもらった」といいますが俺はそうは思いません。確信ってほどでもないけど、作中から読み取れる砂緒の性質から行けば、形は違えど何らかの方法である程度の状態まで復帰出来たはず。(ピアノ以外の面でも) 砂緒にとって相手が幼馴染みだったことは多少のプラスでしたが、基本的には彼女自身の強さで乗り越えていった。恵と砂緒、未憂と詩希ではストーリーのスタンスがまるで違うと思います。
最後に彼女が音楽室に現れたのは彼女が尚を理解したから。尚はずっと弱いままで、待つというアプローチしかできなかった。でもそれが悪いってわけじゃなくて、砂緒がちょっと先を歩いて尚が引っ張られていくのも彼らのカタチだから、そんな距離で進んでいけばいいじゃないと納得したのでした。
エロゲではあまり見られない「距離感のある幼馴染み」の表現が良かった。親しさと違和感のバランスが絶妙で、幼馴染みは本来こういうものだよなーと痛感。大量生産されてる安易で定型化された幼馴染みとは違います。後半やや駆け足で仲良くなってしまったのは若干残念ですが、最後の最後で尚が砂緒との関係を信用しきれない辺りが個人的には納得のゆく結末ではありました。


・恵シナリオ
ATの良心。
尚の手をいっぱいに引っ張って物語の外まで走っていってしまいましたとさ。
「しょうがないなぁ、尚は。」と言わせたらまんまパルフェの里伽子に変身。(中の人も同じだし) お節介とちょっかいをかけることが生き甲斐って人は存在するので、言われるほど違和感は感じなかった。こういう人種は大抵完璧超人として描かれ、実際そんな感じなのですが − 彼女の場合怒りっぽい(感情の瞬発力が高い)ので見てて面白かったですよ。いきなりキスするシーンも「ああ!やっぱりこの子我慢出来なかったか!」と微笑ましい気分に。
尚の症状は大体内因性で、救われる要素を用意しないとなかなか立ち上がらないと思うけど。
ATにおいて尚があらかじめそういう役割を演ずる存在ならば、恵はあらかじめ用意された救いの女神だったわけです。彼女も幼馴染みの一種として認識出来るが、こちらは砂緒とは違い「気付いてもらえない側」であり不遇系。見え見えではあるけどベタベタではない彼女のスタンスを見ても、つくづく人間同士の距離のとり方の上手い作品だと感じました。
超余談だが、俺はこの「気付いてもらえない側」に属しているので彼女の気持ちはよう分かる。ただ彼女のように瞬発力がないので泥のように淀んでいくだけですよ。ぬふー。


・俯瞰
そこかしこに端折った感じがあってそれが残念ではあるものの、雰囲気重視の小さな物語としては悪くないと思いました。CVも割に良くて、中でも砂緒の手塚まき(生○○○美)はピッタリやったね。(浅野麻里亜にも慣れてきました。というか今回は里伽子のイメージの助けもあって平気だったかも) 一応セカイ系であってる筈なんだが、エロゲにおいてセカイ系って少ないかも知れないという認識を新たに持った。
俺は延期の歴史を生で追ったわけじゃないから思い入れはそれほど無い。ずっと待ってた人達はどんな気持ちなんだろう。どんな事情があったにせよ、製作スタッフは彼らの気持ちを考えるべきだよね。(発売されただけマシ、と言い訳するなよ) 酷く不遇な作品ですが、愛される作品だと思います。


・追記
せっかくなので、多分Webに現存する数少ない『ANGEL TYPE』二次創作をやってるせいる先生のところにリンク。現在未憂SS「泡沫姫の蒼」を連載しているので、興味のある方はぜひ。第一話への直リンクはこちらから。下方の「and more」から第二話を探してそこから全部読め。未憂らぶな人は特に読め。