乙女企画クロジ『きんとと』雑感

  • 乙女企画クロジ『きんとと』観てきました。以下ネタバレなので隔離。上演は終わってしまってますが、撮影機材は入っていたのでDVDになるのでしょう。
  • 前作『僕の愛した冒険』が面白かったので期待値高め、しかし苦手ジャンルの娼館モノということで、ちょっと警戒しつつ観劇。それでも面白かったなぁ。生身による情念の表現は、テキストのねちっこさや絵の迫力とはまた違ったものがある。
  • 睦が泰介を殺した、殺さなければいけなかった一幕は圧倒的だった。自分が創作の中で重視している、誇りの所在を明確にした名場面。あらゆるものを奪われても、最後に残った誇りが、燃える館から彼らを走り去らせた。そういう意味では、炎上に至って玉菱がはま乃を連れて走り出したところも良かった。彼女は振り切ることができたのだ。雪路は……まあ、普通の人だったよねという話で。
  • 玉菱は非常に象徴的で、演技もキレていたなぁと思う。『きんとと』の一つの柱である劣等感・後ろめたさを強くする。一夜の夢を与える娼館を舞台にしながら、誰一人として"割り切れていない"――そんな屑どもの話。
  • 萩泉については、キャラクタに対して脚本が追いついていなかった感じがする。それとも演者に色気が足らなかったか。男娼という概念の魅力がどこにあるのか正直分からないところもあって、自分の理解が及ばなかったのかもしれない。(生きる視点の違いに惹かれた、との指摘もあり) 日下のヘタレ具合や芝田の存在感についても同様に微妙な部分が。
  • しかし観て良かった。感情的には非常にイライラするというか、ストレスで駆動するタイプの作品だったけど、作品としては良く出来ている。理屈では全く合わないけど面白いモノに触れたときのイライラは、受け手としてとても大切なものだと思う。次回も観よう。
  • 新宿シアターサンモールは初めて(のハズ)。あまり関係ないけど、200席弱の会場にパイプ椅子まで動員するほどの集客力があるクロジは、経済的に恵まれた劇団なんだろうか。終劇後、他の劇団の人が「ここはセットも照明も豪華でいいなぁ……」と呟いていたのが印象的で。確かに、時代物として重要になるセットはかなり大掛かりだった印象。