『秒速5センチメートル』二次創作SS 『ONE CENTIMETER PER YEAR』について。

 ネタバレ強めにつき隔離。


・ 『ONE CENTIMETER PER YEAR』 第一話
・ 『ONE CENTIMETER PER YEAR』 第二話
・ 『ONE CENTIMETER PER YEAR』 第三話


 実に良い花苗アフターSSであると思います。
 物語の美しさとしては『秒速5センチメートル』は完結している。しかし他の要素 ―― 例えば花苗の未来、貴樹の生命の行方を考え始めると、それぞれに明確なヴィジュアルが現れるはずだ。あのような絶望の中にあっても、どうしても救いが欲しい。弱いと罵られても構わない、貴樹と明里から本当に絶望だけを受け取ってしまう人の為に。このままではあまりにも辛すぎる。

 もしかしたら、あの夏を過ごした花苗は恋愛不全に陥っているかも知れない。4,5年も好きだった人に向き合おうとした瞬間に人間の断絶に気付いてしまったことは、感情系に極めて重大な損傷を残す可能性がある。貴樹と似た道を辿って、空虚に生命を滲ませてしまっている花苗 ―― それを希望と捉える我々は既に腐っているのでしょうが、それでも、救いの瞬間はあの "ロケットの夏" と独りの少女にしかなかったから。


 会社を辞めて、桜の幻影を逃れて、あるいは最後の場所を求めて鹿児島に降り立つ貴樹というイメージから何かが生まれそうな気もする。(第三話の段階で実家は鹿児島にある筈だ) 当時の貴樹が花苗のことを見ていなかったとしても、"時速5km" を聞いた一瞬の記憶が鍵になる。同類の傷の舐め合い? いや、発端は汚らしいモノだったしても、花苗の傷は起源である貴樹によって解放される可能性があるし、あの夏に花苗が貴樹を理解したことは貴樹にとって大きな意味を持つのではないか。

 そんな想いの下に『ONE CENTIMETER PER YEAR』を読みました。本編とはまた違った切なさと、痛みと、救いを感じられるのではないでしょうか。