PULLTOP『てとてトライオン!』の話。

 某所に投下した感想の転載で。ネタバレは少ないけど一応隔離。

 とても素晴らしかったです。自然体というか、得意分野の力というか……とにかく幸せで楽しくて仕方ない作品でした。


 Webでエロゲの話をしてるような、語りたがりの間では流行らないかもしれません。シナリオの筋や流れに重きを置く人にも向いてないかもしれません。どう振り返っても「獅子ヶ崎学園での生活は本当に楽しかったよ」としか言いようがない。大勢の目線から語られるべき作品、あるいは抱える問題故に愛されるような作品とは全く違う方向性を持っている。(この点は『遙かに仰ぎ、麗しの』とは真逆か)


 四人のルートの中ではやっぱり夏海ルートが良かったかな。というか、彼女の個性がこの作品を引っ張っているので、彼女が暴れ回ってる展開が一番自然に見える。お互いに触れ合えるなら、二人は愛情まであと一歩のところにいる――とは誰が言った言葉でしたっけ。エビフライか。ああいう真っ直ぐな女の子をメインに据えるのは創作的に難しいと思うのですが、その辺は勢いでカバーした感じ。外乱はあっても内部的にはずっと楽しいままの、夢のようなお話。


 シンプルにキャラの好みで言えば鈴姫で……まあ予想通りでしょうか。眉毛の角度に一喜一憂できるくらい好きです。そういえばエロ一郎はなぜ眉毛に触れなかったんだろう。エロシーンでまず第一に眉毛を愛撫するくらいの気概が必要だと思います。事後には全力で殴られるでしょうけど。翌日にはカササギ橋からギリギリ頭だけ海に浸かる長さのロープで逆さ吊りにされた鷲塚慎一郎くん(17)が冷たくなって発見されます。


 パートナーの存在感では鷹子さんも芹菜さんもちーさんも優も満点であり、特にちーさんは今すぐにでも求婚したいところ。言うなれば味噌汁キャラ。そのふとましい太股で俺の顔を挟んでほしい。
 ここで一つ興味深いのは、陰で支える彼女らは間違いなく魅力的なんだけど、夏海・手鞠・一乃・鈴姫がちゃんとそれを上回る魅力を発揮しているところ。PULLTOP第一ラインの素晴らしさはメインヒロインが正しく可愛らしいところにあると思う。これはシナリオのお二人の能力なのかな。サブにエロゲらしい有名声優を配置したCVの安定感も素敵。


 たけやまさみ絵も作品を追うごとにどんどんクオリティが上がってて凄い。動かすタイプの演出が作品にハマってるのもあるんでしょうが、その中でもたけやさんの描く表情の豊かさ・振幅の大きさが効いている。"楽しくエロく"という点では、エロゲ界隈で並ぶ人材は少ないんじゃないかなと思う。(個人的に大好物な)キスシーンが印象的に演出されているのはとても嬉しかった。
 いくたたかのん女史のSD絵については今更自分が語る必要もなく。鈴姫が優の背中をバンバン叩いてる絵と、むにゅむにゅ星人来襲がお気に入り。


 そして何よりこの作品を象徴しているのが、主題歌である「Try on!」。この主題歌あっての獅子ヶ崎学園であり『てとてトライオン!』なのかな、と思います。世界への導入として極上な一曲で、たとえ何年経っても聴けば獅子ヶ崎のことを思い出すでしょう。作品に対して詞がガチガチに密着しているわけでもないのにこれほどの一体感が演出された背景には、どのような要因があるのかな。奇跡なら出来すぎている。


 ここはきっとネバーランドだ。
 現実には有り得ない、現実とは全く重ならないこの楽園・獅子ヶ崎学園は、彼らを愛する親たちが創り出した。しかしその親たちも、子供のメンタリティをベースに行動している。大人なんてどこにもいなくて、毎日がお祭りで、いつまでも楽しくて。成果を求めないから覚悟も契約もない。好きだとか楽しいとか、気持ちだけが原動力になる場所。


 一つの世界を創作するフィクションとしての成功は、彼らの手の中にあるのかもしれない。


 まあ、作中の楽しさからすれば、こうして要素を切り出すことにも意味は無いのでしょう。言葉にしにくい作品とはいえ、伝えきれないのはこちらの能力不足か……それは後に猛省するとして、ともかく待ってた甲斐があったなあ。本当にありがとうございました。

 第一印象にして結論という感じでもあります。見方によって読後感が変質する作品ではないと思いますし。


 ネバーランドと定義したのは、この作品は長い単位の時間を意図的に無視しているように見えたからです。将来どうなってゆくとか、二人の関係がどのように変化するかとか、そういう視点を全て排除している。皆で楽しむからお祭りで、皆が獅子ヶ崎を大切だと思うから存在し続ける――そういう御伽噺なんだろう。


 シナリオを流れや筋として見る人、あるいは技巧を重視する人には向かないでしょう。世間的な評価もそこそこで留まりそうな感じもあります。しかしその辺を全部放り出して素敵だと思える何かが、獅子ヶ崎には存在する。愛される作品作りという意味で、PULLTOPは毎度凄い力を発揮するよなぁ。愛してます。