Navel 『Tick! Tack!』 感想 ―― 真のヒロイン登場です

本編より先にFDの感想が完成するってどうなのよ。
ともかく少し軽めのノリ、かつ内容もファジィな感じでお送りします。9KB。
当然 『Tick! Tack!』、『SHUFFLE!』、アニメ版 『SHUFFLE!』 のネタバレを含むので注意。


・ 全体 ―― ここではないどこかへ
 ネリネによるネリネの為のネリネのファンディスク‥‥‥ではないな、多分。
西又御大の絵が苦手な自分にとってはそれだけで一安心だけど、ネリネの出番はそれほど多くない。むしろ表向きは青山ゆかり演じるセージをみんなで弄ってリアクションを楽しむ作品と言うべき。 (あくまで表向き。本当の価値は後述) 特にキャスティングは神としか思えない作品で、声にこだわる人には堪らない仕上がりに。


 しかしご都合主義的なファンディスクで展開上仕方ないとはいえ、稟にはもう少し意志を持って欲しかった。『SHUFFLE!』 のネリネエンドという明確な方向が与えられているのだから、もっと死ぬ気でネリネの存在を守ろうよ。エピローグの数も明らかに少なすぎる。通常ネリネエンドでも途中経過がセージルート・ネリネルートの場合で変化させるべき。
 まぁこのファンディスク、ネリネ好きにとってはある一つのイベントの為だけに存在していると断言できるので、案外問題ないのかも知れない。


 音楽・BGMのクオリティは相変わらず高い! 地鶏の長男の空耳で有名な 「Be Ambitious, Guys!」 もちゃんと聴けば良い曲であるし、挿入歌の 「Pieces」 も作中これ以上ないタイミングでの投入。ホント、 『SHUFFLE!』 に関連する作品は音楽に恵まれている。数・質共に素晴らしい。




ネリネ ―― 甦る天使の鐘  「箱入り娘 幸せな思い出」

近い未来にこの部屋を訪れる彼女からの、遠い未来を生きる俺への挨拶。

 三種類のエンドがあるが、ネリネ好きには通常ネリネエンド以外認められない。
 特に赤ネリネルートは‥‥‥もうひと思いにネリネのカタチをした存在を消して鬱ルートにしろよとも思ってしまう。アイがフォーベシイの妻になるルートはネリネの過去の病弱設定にも影響するとして、本格的な改変になれば消えるのが必然。選択に失敗した凛を待つのはネリネプリムラのいない生活、そしてそれを三人以外誰も覚えていない。いつの間にか鬱ゲーの完成ですよ。
 (発想が陰惨に付き詳細は自主規制。当然ネリネが生まれない=リコリスを創り出せないことになり、病弱設定の消滅により魔王家と稟の繋がりは断ち切られ、全てはなかったことになる。まぁ、この作品に真面目な時空を適用するのは無理なので忘れた方が良さそうですが。)

俺や麻弓、樹が知っていた蒼い髪の少女は、もう俺達三人の記憶の中にしかいない。

 しかし赤ネリネエンドの稟はどこか暗い気持ちを抱えてて面白い、と思った。日常の中に変化は埋もれていくと稟は言ってるけど、彼が軽率な行動によって過去で引き起こした変化は一つの存在抹消だし、実際稟も心のどこかでそう捉えている。これをハッピーエンドと取れる人はネリネが嫌いな人だけだろう。
 ねりねルートもネリネ好きには切ないというか、同一性は保たれていると言われても別物としか考えられない。結局この二つの派生エンドは、ネリネの存在を無視して話を進めた人間に対する天罰なのだろうか? シアを選ばなかった事に対する神ちゃん (ユーストマ) の反撃とか。

‥‥‥なあ、ネリネ。俺達がさ、あの時代のあの場所に行くこと、必然だったと思うか?

 さて本題。
 この時空跳躍の旅を必然と感じるかどうかは、全て 「リコリスとの再会」 に懸かっている。
 本編終了時点で、リコリスという存在が気にかかっていた人も多いのではないだろうか。ネリネの礎になったリコリスに、ほんの少しだけの奇跡を ―― 全ての偶然はその願いを実現する為に起きた。シアに対するキキョウの様に絶対的な救いが用意されなかった、本編ではあれ以上救われる必要性を持っていなかったリコリスとの束の間の邂逅は、何とも美しく心を打つ。この再会だけでもネリネ好きにとっては 『Tick! Tack!』 の物語に意味があったと思えるはずだ。
 キキョウとリコリスの決定的な違いは死である。身体を消されてもシアの中で確実に意志を持って生きるキキョウと、定められた死を前にして自ら望んでネリネの礎になったリコリス。 『SHUFFLE!』 は全体として 「自己規定による束縛からの解放」 と考えられ、リコリスとの融合による自己の揺らぎ・規定はあくまでネリネの問題になる。本編シナリオ終盤でネリネという少女がリコリスと稟の願いを理解し、受け入れ、稟と生きていくと決めた時点で全ては解決済み。だから、リコリスとの再会は、ifに全ての意味を込められるこの外伝でのみ成り立つ贅沢な奇跡だった。

同じ顔をした二人の少女が、一つのベッドで笑顔で語り合う。そして、やがて疲れて眠ってしまう。
そんな幸せな光景を想像し、俺は自然と頬を緩ませた。

 リコリスの想いをネリネと稟に如何に伝えられるか、ネリネと稟の想いをリコリスに如何に伝えられるか。その為に稟には空き部屋でリコリスと出会わせ、ネリネにはリコリスとの思い出を語らせた。『SHUFFLE!』 本編と合わせ、ネリネと稟からはリコリスに充分に伝わっている、なら今度はリコリスに自分の言葉で自分の想いを伝えさせてやりたい。ネリネならずともそう思うだろう?
 二人分の想いで輝くから、ネリネという少女は素晴らしいのだ。

私は‥‥‥リコリスは、確かに幸せでした♪

 本編は本編で完結しているし、蛇足と言えばそれまで。そう思ってしまえばその作品は価値を無くす。所詮思い入れが呼ぶ奇跡なのか、とも感じるけれど‥‥‥何にせよ 『SHUFFLE!』 初プレイ直後に 『Tick! Tack!』 をプレイできた事は大きな幸運だったんだろう。
 そしてネリネ、赤ネリネ、ねりね、リコリスと多数のバリエーションを演じ分けた松永雪希にはMVPか国民栄誉賞を贈るべき。あるいはギャラを4倍にするとか。


 (アニメ版ではリコリスの設定が少し違い、ネリネが死に瀕した状態でリコリスを融合させる。そうすると意味が随分と違ってくるのではないだろうか。例えリコリスの先が長くないと知っているとしても、直接の発端になるのが自分の病気であるとしたら‥‥‥ネリネの気持ちは一層複雑なものになる。ネリネに対してリコリスの込めた願いは同じだから、着陸点は同じだろうけどね。)



・ セージ ―― メイドオブメイド  「家庭的 幸福な家庭」

あははぁ。ぶっ殺されやがりたいですかあ?

 青山ゆかりの魅力爆発。こういう役は何より似合う。
 セージを攻略しようとすると赤ネリネエンドになるか不完全ネリネエンドになるので、個人的には面白くない感じではある。赤ネリネの存在を覆せないことに絶望した稟が、アイに敗れた傷心のセージを現代に無理矢理に連れて行くくらいの離れ業を期待していただけに肩透かし気味。これは全体に言えるんだけど、どうせならもうちょっとトンデモエンドを実装しても良かったかな。
 アイエンドではアイとの再会が実現するのだから、二十年後の独り身のセージとも再会したかったと思う。土見稟とネリネという存在を記憶する彼女なら、二十年後の世界で凛の元へ来る事も可能だろう。 (アイエンド後も結局メイドをしていそうだし、そうなればフォーベシイ経由で稟の居所も分かる。) 当然その時の稟の隣には赤ネリネしかいないわけで‥‥‥より一層複雑な人間関係の始まり、土見ラバーズに第二の使用人追加となりそう。 (第一は楓)

繋ぎとめようとすれば、きっといつでも繋げられるんだろう。ただ大事なのは、二人の意志。二人が、自分の意志でそれを望み、動くこと。

 もう少しフォーベシイとのエピソードを追加すれば関係に厚みがあったんじゃないかとは思うけど、元々リコリスネリネの為のファンディスクだからしょうがない。 (特にフォーベシイとセージの膝枕イベントは絵付きで必須イベントにすべきだったと思うよ‥‥‥) フォーベシイとセージの関係性という意味では、セージルート中途離脱の通常ネリネエンドの場合が一番彼ららしい。臆病なのはお互い様、人と人の絆に手遅れなんてことはそうそう無い、はず。


 ごく個人的な話だがこの娘さん、困ったことにやたらと元気なミア (出演:夜明け前より瑠璃色な) に見えてしまうのだった。いや、ミアは主人 (フィーナ) に蹴りを入れたりはしないんだけど、メイド以外の状態が有り得ないという意味で似ている。弄られると弱い辺りもその性質によるのだろう。現状のメイドキャラでの最先端はこの辺りという認識で良いんだろうか?
( 「メイドの極北琴乃宮雪である」 という声があちらこちらから聞こえてきそうだ。)



・ アイ ―― 不幸になるのは誰の所為?  「美しい装い」

ずっと待ってたんだよ。稟くんにまた会える日を。

 ここで三村祥子と来るとは、つくづくこの外伝はキャスティングが最高としか思えない。
 ストーリー的に影は薄いなぁ‥‥‥言うまでもないけど、この人が正史に残られなかった全ての原因は諦めが良すぎるせいだ。 「愛される筈である」 なんて思っている奴に未来は無い。稟達が過去へ跳んだその日、セージはフォーベシイにプレゼントのエプロンを買っているわけで、そんなセージの方を応援したくなるのが人情である。ネリネという要素が無いとしてもね。

どうやら、俺の生活に平穏という言葉はないらしい。

 しかし結末が一番シャッフルクオリティなのはアイエンド。ネリネの存在を維持しつつ土見ラバーズをさらに増やすとは、これが神にも悪魔にも凡人にもなれる男の力か。土見ラバーズに不足している強・年上成分を充填できることを考えても美味しい。ああ、アイはニートみたいな生活をしていそうだし、芙蓉家に押しかけ女房とかしに来るんだろうな。なんて―――甘美な――― (そして楓の胃に穴が空く)
 彼女が20年間稟を待ち続けたことから見てもアイエンドは面白い。与えられた境遇に感謝することも確かに難しいけど、執着を以てその先に立てるようになったアイが最後の最後で魅力的に見えた。やっぱり土見ラバーズに加入するにはそのくらい突き抜けないとね。



・ サブキャラ ―― 一途とハーレムは矛盾しない

大丈夫! 平等に、心から愛してもらえるのなら女は一夫多妻も戦える!

 ああ、こんなところにも神懸かったキャストがいるよ‥‥‥バークが。
 勇者王がメイド服着て妄想超特急で駆け抜ける姿には思わず目から変な汁が出そうになったけど面白いので全てオーケー。微妙に重要キャラであるサイネリアは可もなく不可もなく。一夫多妻制に挑むにはこれだけのバイタリティが必要とすると、土見ラバーズでハーレムを構成するのは大変そうだ。 (主に凛と楓の精神がすり減る) 樹や麻弓はあまり重要にならず。つーかお前らネリネの存在そのものがピンチなんだからもうちょっと真面目にやれよ、と思った俺は明らかにネリネちゃん突撃護衛団員。ちなみにサイネリア花言葉は 「元気」「常に快活」 、バークとは樹皮のことだそうで。ネタには困らない題材とはいえ本当に徹底されている。



・ まとめ
 全体としては不満も多いけど、正式に外伝として認めるべき魅力が充分にある。特にリコリス絡みのイベントは、ネリネに関する全てに深みを持たせる素晴らしいモノ。ネリネリコリスの可愛さは三世界一であり、全てはラヴなのでした。